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千葉家庭裁判所市川出張所 昭和63年(家)746号 審判

申立人 山形・ジョージ・明 外1名

未成年者 中山かおり

主文

申立人らが未成年者中山かおりを養子とすることを許可する。

理由

1  申立

申立人は、主文と同旨の審判を求めた。

2  当裁判所の判断

一件記録によれば、次の各事実が認められる。

(1)  未成年者(以下、「かおり」という。)は、実母中山恵(実父との間の認知調停不成立につき、実父未確定)の子として、昭和62年10月7日、千葉県館山市で出生した女児であり、本件審判時において満1歳8月である。かおりが出生した当時、実母が中学2年生であつたため、かおりは、出生後14日間助産婦方に預けられた後、同年10月30日、児童相談所の措置により千葉県船橋市所在の○○乳児園に入院し、以後、同所で成長した。

(2)  申立人(養父となる者・以下、「明」という。)は、カナダ国籍(和歌山県出身)の父母の4男としてカナダ国で出生し、大学の建築科を卒業後、カナダ国○○市の市役所に勤務している。明は、カナダ国籍を有する。

申立人(養母となる者・以下、「良子」という。)は、東京都で出生し、ビジネス専門学校を卒業した後、建築設計事務所に勤務し、昭和46年11月6日、韓国籍の前夫とアメリカ合衆国カリフオルニア州の法令に従つて婚姻したが、同50年10月9日、同人と協議離婚した。良子は、その後、カナダ国所在の旅行会社に勤務中に明と知り合い、昭和61年3月30日、カナダ国ブリテイツシユ・コロンビア州の法令に従つて同人と婚姻した。

良子は、日本国籍を有する。

(3)  申立人夫婦間には子がなかつた。このため、良子は、昭和63年6月に日本に帰国した際、良子の実母と共に前記乳児園を訪れたところ、かおりを紹介された。その結果、申立人らは、同年7月ころ、かおりを申立人らの養子とすることを決意し、同年10月には同園を訪れてかおりと面接するなどし、同月21日、かおりの実母もかおりを明及び良子の養子とすることを承諾したので、同年11月14日、本件申立をなした。そして、良子は、同年12月ころからは同園を毎日のように訪れて未成年者と遊ぶようになつた。同園では、明及び良子をかおりの里親とするのが相当であると判断し、そのための手続が進められた結果、同64年1月7日、かおりに対する措置が解除となつたことから、同日、良子は、かおりを引き取り、以後、申立人ら肩書地において明及び良子がかおりを養育している。

(4)  明、良子及びかおり間の関係は、昭和64年1月7日以降、継続して非常に良好な状態に保たれており、相互に実の親子のように親和している。また、明及び良子がかおりをその養子とすることについて、経済上及び生活環境上の問題はない。

(5)  良子は、観光ビザにより肩書地に居住しているが、かおりと共にカナダ国の永住権を取得し、将来とも家族全員で申立人ら肩書地に居住することを希望している。

以上のとおり認められる。

3  本件は、いわゆる渉外養子縁組事件に属するので、その適用法令について判断する。

(1)  まず、国際裁判管轄について検討すると、養子縁組事件に関しては養子となる者の福祉を主眼としてこれを審理・判断すべきことが近代養子法の理想であるとの原則が一般的かつ国際的に承認されていることからすると、原則として、その国際裁判管轄は、養子となる者の常居所地に属すると解される。しかるところ、かおりは、現在、カナダ国ブリテイツシユ・コロンビア州に居住(Residence)するが、本件申立時には千葉県船橋市所在の前記乳児園に住所を有していたのであるし、また、仮に本件申立が認められない場合には再び同乳児園にその住所を移転せざるを得ないことも明らかである。従つて、かおりを日本国に常居住所を有する者として扱うべきである。そして、このように解する以上、本件の国際裁判管轄は日本国に属し、また、国内的裁判管轄は、家事審判規則63条により、当裁判所に属する。

(2)  次に、本件の準拠法について検討する。

明が日本国にドミサイル(Domicile)を有していないことは前記のところから明らかである。従つて、コモン・ローによる反致を認めることができないので、法例19条1項により、明の養親としての要件はカナダ国ブリテイツシユ・コロンビア州の法令が、良子及びかおりについては日本国民法がそれぞれ準拠法として適用されることになる。

4  そこで、養子縁組の要件充足の有無を判断する。

(1)  まず、良子及び未成年者について、日本国民法における養子縁組許可の要件をいずれも満たしていることは、前記認定のところから明らかである。

(2)  次に、明について検討するに、カナダ国ブリテイツシユ・コロンビア州で効力を有する養子法(Adoption act Consolidated October 20,1987)によれば、「成人の夫は、成人の妻と共同して未成年者を養子とすることができる」(3条1項)、「申立人は、申立前の6か月以上前に、監督官(superintendent)に対し、その意図を書面で通知しなければならない」(6条2項)、「養子縁組をしようとする者は、子と同居を始めてから14日以内に、監督官に対し、通知に示された住所において子と同居を始めたことを通知しなければならない」(同条1項)、「監督官は、第2項の通知を受け取つたときは、直ちに、(a)申立人の環境及び性格、(b)申立人が養子縁組によつて養親となることの適格性、(c)申立人が養親となることについての子の適格性、(d)第7項及び第8項に示されている事項及び第6項によつて要求されている勧告をなすのに必要な事項並びに裁判所が第8条及び第10条の命令をなす場合に参考となる事項を調査しなければならない」(同条3項)、「第8項の場合を除き、裁判所は監督官の報告書が提出されており、かつ、申立人の審問のために指定された日の少なくとも6か月以上前から申立人が子と同居を継続していること、その期間を通じて申立人の子に対する振る舞い及び子の生活状況が養子縁組命令を発することを正当化するものであることがその報告書によつて証明されているのでない限り、養子縁組命令を発することができない。」(同条7項前段)、「監督官への通知期間、申立人と子の同居期間に関する第2項及び第7項の規定を遵守することが、全当事者の利益保護のために不必要であるという合理的な理由が監督官の報告書によつて証明されている場合は、裁判所は、これらの規定に従うことを免除することができる。」(同条8項)、「子を養育し、子の教育と財産を維持することについての申立人の能力及び養子縁組の適合性について満足であるとの判断をしたときは、裁判所は、子の福祉と子の実親の利益を考慮した上で、第5条、第6条、第7条及び第8条の規定に従い、子を申立人の養子とする養子縁組命令を発することができる。」(第10条1項前段)と規定している。

(4)  しかるところ、日本国においては同養子法にいう監督官なる制度が存在しないが、同養子法における監督官の職務内容及び権限の大半が日本国の家庭裁判所調査官の職務内容及び権限と共通しており、不足する部分は同調査官による調査の経過において嘱託される児童相談所及び乳児院等からの回答等によつてこれを補うことができること、監督官による調査手続に関する規定は手続規定であり、同養子法において監督官が調査すべきものとされている養親となる者の生活状況や養子となる者との適合性等の実質要件のみが厳密な意味における日本国法例19条所定の養親の要件に該当すると解されることに照らすと、日本国の家庭裁判所調査官による調査及びその調査結果報告書をもつて同養子法における監督官の調査及びその報告書に代えることも許されると解される。そして、当庁家庭裁判所調査官○○の調査結果報告書によれば、監督官への通知期間及び子と明との同居期間の点を除き、明について、同養子法に定める養親となるための実質的要件がいずれも満たされていること、明について同法6条8項所定の期間に関する規定の免除を相当とする合理的な理由があることが認められるので、本件における明とかおりとの同居期間は6か月に満たないが、同養子法6条2項及び7項に定める6か月以上の期間の遵守の規定の適用を免除するのが相当である。

5  以上認定のところ及び本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、当裁判所は、未成年者を養育し、未成年者の教育と財産を維持することについての明の能力及び本件養子縁組の適合性の要件が十分に満足されていると判断するので、未成年者の福祉と未成年者の実親の利益を考慮した上で、明については、前記養子法10条に定める養子縁組命令に代わるものとして養子縁組の許可をし、良子については、日本国民法798条の養子縁組の許可をすることとする。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 夏井高人)

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